泣ける小説を読みたい。そんな気分になる夜があります。
悲しい物語に思いきり涙を流したいときもあれば、家族の愛情や誰かの懸命な姿が胸をうち、気づけば目頭が熱くなっていることもあります。
この記事では、年間200冊以上読む筆者が実際に読んだ作品から、心を揺さぶられた10冊を選びました。
死や病気を描いた作品だけではありません。父と子、青春、夫婦、別れ、喪失からの再生、人と人とのつながり。泣ける理由がそれぞれ違う10冊です。ぜひ気になる一冊から手に取ってみてください。
泣くことよりも、読後にやさしい気持ちになれる作品を探している方は、「心が温まる・癒される小説おすすめ記事」も参考にしてください。
迷ったらまずこの3冊|泣ける小説の名作
10冊ともおすすめですが、初めて選ぶなら次の3冊です。
- 家族の愛情に泣きたい時 →『とんび』
- 生きること、別れることに向き合いたい時 →『ライオンのおやつ』
- 青春と人の成長に胸を熱くしたい時 →『くちびるに歌を』
泣ける理由は三者三様です。自分が今いちばん心を動かされそうな作品から選んでみてください。
泣ける小説おすすめ10選
1.『とんび』(重松清)|不器用な父親の愛情に泣く
妻を亡くし、一人息子のアキラを男手ひとつで育てることになったヤス。器用に言葉で愛情を伝えられる父親ではありません。それでも、悩み、間違い、ときには息子とぶつかりながら、父親として懸命に生きていきます。
昭和の町で周囲の人々に支えられながら成長していく親子の年月。子どもが大きくなるほど、父親の手から少しずつ離れていく。その寂しさと誇らしさが同時に胸をうちます。
親になった人なら、刺さる場面も多いはずです。ヤスの不器用な行動そのものから伝わってくる息子への愛情に、気づけば涙がこぼれる。泣ける小説を一冊だけ選ぶなら、まずおすすめしたい作品です。
2.『ライオンのおやつ』(小川糸)|人生の最後を温かく描いた物語
余命を告げられた30代の女性が、瀬戸内の島にあるホスピス「ライオンの家」で残された時間を過ごします。
そこにいるのは、同じように人生の終わりと向き合う人たち、メイド服姿の院長、島で暮らす人々。そして入居者には、人生でもう一度食べたい「おやつ」をリクエストできる時間があります。
死を扱う物語ですが、読んでいて息苦しくなる作品ではありません。むしろ、1日を過ごすこと、誰かと食事をすること、大切な人のことを思うこと。その一つひとつが、どれほど尊いのかを感じさせてくれます。
「死」というものへの恐れが、少しだけ和らぐような読後感があります。今そばにいる人との時間を大切にしたくなる、やさしく胸に残る一冊です。
3.『くちびるに歌を』(中田永一)|十五歳の思いが歌声になって胸に響く
五島列島の中学校を舞台に、合唱部に集まった生徒たちの青春を描いた物語です。
思春期の男子と女子。恋をしたり、相手との距離に悩んだり、自分自身が抱えている問題をうまく言葉にできなかったり。それぞれが十五歳らしい不器用さを抱えながら、一つの歌を作り上げていきます。
物語の中で大きな意味を持つのが、アンジェラ・アキの「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」。歌詞と登場人物たちが抱えている思いが重なっていくにつれ、単なる合唱部の青春物語を超えていきます。
皆で懸命に前を向こうとする姿に胸が熱くなる、爽やかな涙が似合う一冊です。
4.『明日の記憶』(荻原浩)|記憶を失っても残る夫婦の思い
広告代理店で働く50歳の佐伯は、仕事の第一線で多忙な日々を過ごしていました。ところが、物忘れが増えたことをきっかけに病院を訪れ、若年性アルツハイマー型認知症と診断されます。
仕事の段取りが分からなくなる。知っているはずの道で迷う。そして、自分にとって最も大切な人との記憶まで少しずつ失われていく。メモをあちこちに貼り、病気であることを周囲に悟られまいとする佐伯の姿。本人の恐怖だけでなく、その姿をそばで見守る妻の姿が胸に迫ります。
「記憶を失えば、大切な人と過ごした時間まで失われてしまうのか」。読み進めるほど、その問いが重く覆いかぶさってきます。夫婦とは何か、記憶とは何かを考えさせられ、最後にはこらえていた感情があふれる一冊です。
5.『夏の庭―The Friends―』(湯本香樹実)|少年たちと老人のひと夏
「人が死ぬ瞬間を見てみたい」。
そんな好奇心から、小学6年生の少年3人は、近所で一人暮らしをしている老人を観察し始めます。ところが本人に気づかれてしまい、奇妙な関係が始まることに。
最初はただの観察対象だった老人。しかし、一緒に過ごす時間が増えるにつれて、少年たちは庭仕事を手伝い、話を聞き、少しずつ一人の人間として老人と向き合うようになります。
子どもたちにとって「死」は、最初はただの興味の対象でした。一人の老人との時間を通して、「死」が自分たちと無関係なものではないと知っていきます。大人になって読むほど胸に響きます。
6.『椿山課長の七日間』(浅田次郎)|死んで初めて見えてくる家族の思い
仕事一筋で家族を支えてきた椿山課長は、ようやく昇進した矢先に命を落とします。
ところが、わずか七日間だけ別人の姿を借り、この世へ戻ることを許されます。椿山が借りることになったのは、なんと美しい女性の体でした。
自分がいなくなったあとの家族を見ることで、生前には分からなかった事実や人の思いに触れていきます。
設定にはユーモアがあり、思わず笑ってしまう場面も少なくありません。それだけに、家族や人生への思いが浮かび上がる場面が余計に胸に刺さります。
泣けるのに重苦しさだけを残さない。浅田次郎らしい人情と温かさが詰まった物語です。
7.『風に舞いあがるビニールシート』(森絵都)|大切なもののために生きる人たち
「自分にとって本当に大切なものは何だろう」。
仕事、約束、家族、愛する人。人生の中で何かを選ばなければならない人たちを描いた、6編からなる短編集です。
高校時代の仲間と交わした約束と仕事の間で揺れる「ジェネレーションX」など、登場人物は決して特別な英雄ではありません。迷ったり、立ち止まったりしながら、それでも自分にとって大切なものに向き合おうとします。
私はこの短編集の中でも「ジェネレーションX」が特に好きですが、全編それぞれに違った魅力があります。そして表題作を読んだときには、実際に涙がこぼれました。今回の10冊から外せなかった一冊です。
8.『西の魔女が死んだ』(梨木香歩)|おばあちゃんとの時間が最後に胸を締めつける
学校へ行けなくなった少女・まいは、田舎に暮らす大好きなおばあちゃんの家で過ごすことになります。
まいが教わる「魔女修行」は、不思議な魔法を覚えることではありません。早寝早起きをする、自分のことは自分で決める。自然の中で生活しながら、自分自身の心と向き合っていきます。
まいを急かさず、押しつけず、そばで見守るおばあちゃん。
その関係が心地よいからこそ、物語の後半に訪れる死と別れが胸に迫ります。読み終えたあとに思い返すのは、二人が一緒に過ごした何気ない時間です。
9.『昨夜のカレー、明日のパン』(木皿泉)|悲しみの中でも日常は続いていく
若くして夫を亡くした女性と、その義父。大切な家族を失った二人が一緒に暮らしながら、それでも毎日を続けていく物語です。
悲しみは簡単には消えません。それでも人はごはんを食べ、くだらないことで笑い、誰かと言葉を交わしながら少しずつ次の日へ進んでいきます。この作品を選んだ理由は、喪失を「乗り越えなければならないもの」として描かないところです。
忘れられなくてもいい。悲しみを抱えたままでも、いつかまた笑える日がくる。そんな希望が物語の底に流れています。
正直、タイトルだけ見たときはもっと食べ物中心の話を想像していました。ところが読んでみると、悲しさとおかしさが同居した、思っていた以上に“泣ける小説”でした。
10.『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(東野圭吾)|時を超えて届く思いに涙する
逃げ込んだ空き家で夜を明かそうとしていた三人の若者。その建物は、かつて悩み相談を受け付けていた「ナミヤ雑貨店」でした。
突然届いたのは、過去からの相談の手紙。戸惑いながら返事を書く三人は、夢と家族の間で迷う人、将来に悩む人など、さまざまな人生に関わっていきます。
最初は独立しているように見えた物語が、読み進めるうちに少しずつつながっていく構成も、東野圭吾さんならでは。
人が誰かを思って選んだ言葉や行動は、思わぬところで別の人生につながっていく。その温かさに涙がこぼれる感動作です。
泣ける小説は、悲しい物語だけではない
今回紹介した10冊を振り返ると、「泣ける理由」は同じではありません。
『とんび』では父親の愛情に胸をつかまれ、『ライオンのおやつ』では生きる時間の大切さを考えさせられる。『くちびるに歌を』では若者たちの成長に胸が熱くなり、『昨夜のカレー、明日のパン』では、悲しみを抱えながら日常を続けていく人たちに心を動かされます。
誰かを思う気持ちや、懸命に生きる姿、もう戻らない時間に触れたとき、不意に感情があふれることがあります。今回の10冊の中に、そんな一冊が見つかればうれしいです。
泣いたあと、少し気持ちを上向かせる物語を読みたくなった方は、「元気が出る・前向きになれる小説おすすめ記事」も参考にしてください。

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