呉勝浩さんの『爆弾』を読んで、「同じような緊張感がある小説を読みたい」と思った方へ。
『爆弾』の面白さは、東京のどこかに仕掛けられた爆弾を探すタイムリミットサスペンスだけではありません。
取調室にいるのは、自称・スズキタゴサクという冴えない中年男。ところが話を聞けば聞くほど、どこまでが嘘で、どこまでが本当なのか分からなくなる。警察が問い詰めているはずなのに、いつの間にか会話の主導権まで奪われていきます。
何を考えているのか分からない相手との心理戦と、その奥にある狂気。
この記事では、そんな『爆弾』の面白さに惹かれた方におすすめしたい小説を5冊紹介します。
『爆弾』に似た小説おすすめ5選
羊たちの沈黙(トマス・ハリス)
『爆弾』の心理戦が好きなら、まず、断トツで読んでほしい一冊です。
若い女性を狙う連続殺人犯“バッファロウ・ビル”を追うFBI。訓練生のクラリスは捜査の手掛かりを得るため、収監されている元精神科医ハンニバル・レクターと面会します。
レクターは圧倒的な知性でクラリスの内面を見抜き、情報と引き換えに彼女自身の過去へ踏み込んできます。質問している側と答える側のはずが、いつの間にか力関係が逆転し、息苦しいほどの会話の駆け引きがたまりません。
『爆弾』のスズキタゴサクも、取調室から動けないにもかかわらず、言葉だけで刑事たちを翻弄します。拘束されている人間の方が少しずつ相手を支配していく怖さは、両作品に通じる大きな魅力です。
実際、呉勝浩さんは『爆弾』について、『セブン』や『CURE』とともに、『羊たちの沈黙』のような世界観を自分なりに作りたかったと語っています。『爆弾』に似た小説を一冊だけ選ぶなら、私はこの作品をおすすめします。
黒い家(貴志祐介)
「常識が通じない人間」の怖さを味わいたいなら『黒い家』です。
生命保険会社に勤める主人公は、顧客の家を訪れた際、子どもの首吊り死体の第一発見者となります。その後、死亡保険金が請求されますが、顧客の態度に違和感を抱いた主人公は独自に調査を始めます。第4回日本ホラー小説大賞を受賞した貴志祐介さんの代表作です。
この作品で恐ろしいのは、幽霊でも怪異でもありません。こちらと同じ倫理観を持っていると思ってはいけない人間そのものです。
『爆弾』でも、スズキタゴサクのように理屈が通じそうで通じない。何をするのか予測できない。その感覚は『黒い家』にもあります。心理戦の方向性は異なりますが、「こ話が通じない人間」とやりとりする恐怖がたまらなかった方には強くおすすめできる一冊です。
扉は閉ざされたまま(石持浅海)
『爆弾』の会話による「攻防」が面白かった人には、この作品をおすすめします。
大学の同窓会で七人の旧友が集まるなか、伏見は後輩の新山を殺害。事故に見せかけた密室を作り上げます。読者には最初から犯人が明かされていますが、参加者の碓氷優佳だけが小さな違和感に気づき、真実へと少しずつ迫っていきます。
面白いのは、「相手はどこまで気づいているのか」を読み合う頭脳戦です。
伏見は優佳の疑いをかわそうとし、優佳は何気ない言葉や行動から矛盾を探っていく。一つの質問によって形勢が変わり、少しずつ逃げ道が塞がれていきます。
『爆弾』とは設定がまったく違います。それでも、事件が言葉と推理の応酬である点はよく似ています。スズキタゴサクと刑事たちのやり取りに引き込まれた人なら、この心理戦も楽しめるはずです。
連続殺人鬼カエル男(中山七里)
『爆弾』の「警察VS異常犯罪者」という構図が好きならおすすめです。
マンションの高層階から吊るされた女性の遺体。そのそばには、子どもが書いたような稚拙な犯行声明文が残されていました。その後も猟奇的な殺人が続き、正体不明の「カエル男」によって街全体が恐怖と混乱に巻き込まれていきます。
警察は犯人の意図が見えないため先手を打つことができません。相手の目的が分からないため、次の事件を止められない緊張感が続きます。
取調室を中心に進む『爆弾』よりも、こちらは捜査と猟奇事件が前面に出た作品です。それでも、異常な犯罪者に翻弄される警察、予測不能な展開という点では共通しています。スピード感のある犯罪ミステリーを続けて読みたい方におすすめです。
あの日、君は何をした(まさきとしか)
狂気は、見るからに異常な人間だけが持っているものではない。そんな怖さを感じさせる作品です。
2004年、連続殺人事件の容疑者と間違われ、警察から逃げる途中、一人の少年が命を落とします。
しかし、そもそも少年はなぜ深夜に家を抜け出していたのか。15年後に東京で起きた別の殺人事件をきっかけに、二つの出来事が思わぬ形でつながっていきます。『爆弾』とは物語の構造も雰囲気も違います。それでも共通しているのは、人間を簡単に善と悪へ分けられなくなる怖さです。
家族を思う気持ち、思い込み、自分を守るための理屈。やがて想像もしなかった結末を迎えます。
スズキタゴサクの言葉も、ただ異常な犯罪者の戯言として片づけられないからこそ不気味です。事件の謎だけでなく、人間の心に潜む危うさまで描いたミステリーが読みたい人におすすめです。
『爆弾』が好きな人におすすめしたいのは「狂気」と「心理戦」のある小説
『爆弾』を読み終えたあとに強く残るのは、爆発そのものの恐ろしさ以上に、スズキタゴサクという人間の底が知れない気持ち悪さではないでしょうか。
何を考えているのか分からない。どこまでが本当なのか分からない。今回紹介した5冊にも、形は違っても同じような怖さがあります。
言葉だけで相手を翻弄する『羊たちの沈黙』、常識が通じない人間を描く『黒い家』、緊張感のある会話と推理で構成された『扉は閉ざされたまま』、異常犯罪者を追う『連続殺人鬼カエル男』、そして人間の心に潜む歪みを描く『あの日、君は何をした』。
『爆弾』のような心理戦や狂気に満ちたミステリーをもう一冊読みたい方は、ぜひこの5冊から選んでみてください。

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